14 Til I Die

消されるな、この想い

ミステリレビュー「ダリの繭」 著:有栖川有栖

ダリの繭 (角川文庫―角川ミステリーコンペティション)

ダリの繭 (角川文庫―角川ミステリーコンペティション)

作家アリスシリーズ。

ダリに心酔する宝石チェーンの社長が変死体で発見された。「繭」を思わせるフロートカプセルの中、自慢のダリ髭を失った状態で。
次々に不可解な点が浮かび上がる事件に、犯罪社会学者・火村英生と推理作家・有栖川有栖が立ち向かう――。

 死体発見の状況からして中々に魅力的な題材に思えるが、作家アリスシリーズの例に漏れず「本格」としての雰囲気は控えめであり、どちらかと言えば火村とアリスの軽快なフットワークとそれが醸し出す展開の面白さが本作の魅力である、という印象を受けた。主役は「謎」ではなくあくまでも火村とアリスなのだ、と。
 そういった意味では実に好き嫌いのはっきり分かれる作品。
評価:★★★☆☆
(初稿:2006年頃)*1

テレビドラマ版から興味を持った方には、角川ビーンズ文庫版をお奨めする。

*1:本編を原作としたテレビドラマの放映に合わせて、旧webサイトでは公開しなかったテキストをサルベージ・改稿した。タイムスタンプが残っていなかったため、日付は省略。

ミステリレビュー「絡新婦の理」 著:京極夏彦

文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫)

文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫)

京極堂」シリーズ第5弾。

あなたが――蜘蛛だったのですね

 なんとも幻想的な場面から始まる本編は、それが暗示するとおり、シリーズで最も観念的でありまた幻想色が強い。「鉄鼠の檻」とはまた違った意味で「シリーズ随一」との評価が与えられるのも肯ける。
 何者かの張り巡らした「蜘蛛の巣の上」で、登場人物達がいいように動かされるさまは滑稽でもあり、また恐ろしくもある。ただ、あまりにも「予定調和」過ぎるため、登場人物達は何が謎なのかさえも思い当たらず、また探偵たる京極堂が手を下す必要のある部分も極めて少ないため、今までのシリーズにあった「鬱積したモヤモヤを憑物落しによって払われる」感覚が希薄であるかもしれない。
 終盤に近づけば近づくほど、「蜘蛛」が誰なのかがはっきりと分かってくるため、「意外な犯人」的な驚きは薄いだろう。だが、読了後に残る何ともいえない寂寥感こそが、本作の魅力なのだろう。
評価:★★★★☆
(初稿:2005/10/23)

ミステリレビュー「46番目の密室」 著:有栖川有栖

46番目の密室 (講談社文庫)

46番目の密室 (講談社文庫)

 有栖川作品には人気を二分する二つのシリーズ作品が存在する。一つは、「月光ゲーム」を一作目とする大学生・有栖川有栖が主人公である「学生アリス」シリーズ。もう一つは、ミステリ作家・有栖川有栖と犯罪学者・火村英生が活躍する「作家アリス」シリーズであり、本作はそのシリーズに属する。
 さて、肝心の内容だが、表題にある「密室」に対する考察や拘りを期待していると少々肩透かしをくらう。「密室モノ」としてはごく普通の構成と言っても過言では無いだろう。
 全体の出来としては「推理小説」の良いお手本といえるレベル。が、惜しむらくは、新本格特有の、匂い立つようなミステリの雰囲気が殆んど感じられない所だろうか。良い意味でも悪い意味でも「お手本」止まりな作品であり、それは本作以降の「作家アリス」シリーズ全般に言えることなのだが……、詳細は各作品のレビューに譲る事にする。
評価:★★★☆☆
(初稿:2006/05/16)


余談だが、先日「作家アリス」シリーズを原作とするテレビドラマ「臨床犯罪学者 火村英生の推理 」の放送が開始された。イケメン若手俳優に火村とアリスを演じさせている点から見ても、内容は言わずもがな、といったところか。

角川ビーンズ文庫版の表紙からお察しいただきたい。

ミステリレビュー「霧越邸殺人事件」 著:綾辻行人

霧越邸殺人事件 (新潮文庫)

霧越邸殺人事件 (新潮文庫)

 ほんの少しの油断から吹雪に見舞われ遭難してしまった劇団「暗色天幕」の面々。そんな彼らの前に突如現れた山中の洋館「霧越邸」。「助かった」と思ったのも束の間、霧越邸内では不可思議な現象が次々と起こり、そして遂には殺人事件が……。

 「時計館の殺人」が「幻想小説と見事に融和したミステリ」だとすれば、本作は「ミステリと見事に融和した幻想小説」と言うにふさわしい作品だろう。しかも、それでいて本作は紛れも無い「本格ミステリ」でもある。綾辻氏が冗談交じりに語る「本格=雰囲気」論を究極まで突き詰めた作品といえるのかもしれない。
 「見立て殺人」というありふれた素材を使いながらも、全く退屈する事も破綻する事もないこの物語は、真実恐るべき完成度を誇っている。そして、哀愁とも何とも言えぬ雰囲気を醸し出す、心地よい余韻を残した、その結末。
 満腹。ごちそうさまでした。
評価:★★★★★
(初稿:2004/08/16)

ミステリレビュー「翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件」 著:麻耶雄嵩

翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件 (講談社文庫)

翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件 (講談社文庫)

※基本的に旧webサイトで公開していたものの再録である拙ミステリレビューだが、本稿は下書きしつつも公開に至らなかったものを、思うところあって加筆修正の上で投稿したものである事を前もって断っておきたい。そういった意味で「初稿」は本日の日付としたが、言うまでもなく本作を読了したのは10年以上前である事も付け加えておく。
 さて、少々ネタバレをしてしまえば本作は大まかに言って「メタミステリ」に分類される作品と言える。古典本格ミステリの様々なエッセンスや、特定作品に向けたオマージュが多用されており、そういった読み方をした場合、所々で失笑*1を禁じ得ない、そんな作品だ――ただし、度を越したミステリマニアにとっては、だが。
 オマージュを意識し過ぎた雰囲気は出来の悪いパロディ以外の何物でもなく、最後に待ち受ける驚天動地の結末については最早ただのギャグにしかなっていない。ネット黎明期に某有名ミステリ系テキストサイトでも鉄板ネタとして取り上げられていた、と言えば一部の方には通りがよいだろうか? 私的には「金田一少年の事件簿*2を読んでいたのにいつの間にか「名探偵コナン」にすり替わっていた位の衝撃だった。
 しかしながら、この作品は新本格の旗手と呼ばれるようなお歴々をはじめとするミステリマニアの方々には概ね評判がいい。まことにミステリマニアとは業の深い生き物であると、ため息を一つ。

評価:★☆☆☆☆
(初稿:2016/1/7)

*1:本来的な、こらえきれない笑いという意味において

*2:誤解のないように注釈しておくと、筆者は「金田一少年~」を「ミステリ漫画」ではなく「ミステリ風漫画」であると思っている。良い意味でも悪い意味でも。

謹賀新年

ここ数年、経済的にも精神的にも不安定な生活を送っている為に無事2016年を迎えられるか心配でしたが、新年早々のど風邪をやらかした以外は平穏な元旦を過ごせております。皆様におかれましては、幸多き一年となることをお祈りいたします。

今年も本ブログは至極マイペース、ネット上での話題への言及や「ミステリレビュー」をはじめとする過去にwebサイトで書いた記事の再掲載などを、気が向いた時に投稿するというスタンスで運営してまいります。ふと思い出したときなどに足を運んで頂ければ幸いです。
ミステリレビューについてはストックがまだそれなりにありますので、月に4本以上を目安に再投稿しつつ、読了済みながらも過去サイトには掲載しなかったものもちょこちょこと書いていこうかと思います。

メインブログ「たこわさ」の方は相変わらず週1~3程度のペースで漫画・アニメ・ゲームの独りよがりな感想を垂れ流しております。頭の気の毒な中年オタクを観察なさりたい方にはお勧めですのでどうぞご贔屓のほどを(などと新年早々安易な自虐ネタをかましつつ終了)。

ミステリレビュー「御手洗潔の挨拶」 著:島田荘司

御手洗潔の挨拶 (講談社文庫)

御手洗潔の挨拶 (講談社文庫)

御手洗潔」シリーズの短編集

 島田荘司という方は、とにかく「大掛かりなトリック」を描く事が大好きなようで、そういった類のミステリを好む方にとっては安心して読める作家といえるだろう。だが、「本格の匂い」を強く求める読者には、少々物足りないのも事実であろう。「本格」というには 「雰囲気」が足りない。
 しかしながら、本書に収録された短編はいずれも物語として単純に楽しめ、トリックだけを誇張した不出来なミステリ作品とは一味違う。「本格ミステリ」ではなく「本格的なミステリ」とでも言えばいいだろうか。
私的には「紫電改研究保存会」がお気に入りの作品。
評価:★★★☆☆
(初稿:2004/08/21)