14 Til I Die

消されるな、この想い

ミステリレビュー「ハサミ男」 著:殊能将之

ハサミ男 (講談社文庫)

ハサミ男 (講談社文庫)


著者デビュー作。メフィスト賞受賞作品。
 メフィスト賞作品という事で敬遠していたのだが、思いの外楽しむ事ができた。 中々の良作であり、良い意味での「B級ミステリ」であると感じた。
 デビュー作という事で固さもあるのだろうが、細部を描くことを意図的に放棄したと思われる数々の描写。あざとく隠さずに、ある程度予測が付くように伏線をちりばめたメイントリック。そして、真犯人の姿とあの結末。「本格」の匂いを漂わせつつも幾分か芯を外した、それでいて巷に溢れる「本格未満」の駄作とは一線を画した完成度。悪く言えばちぐはぐ、良く言えば独特な空気が、本作にはある。
 少々気になったのが、所々で(結果的に)トリックとは関係のない要素が挿入されていた点。読了してもそれらの要素が何を表しているのかが分からなかった。少々穿った見方をするならば、あれらは作者が暗にアンチミステリの匂いを散りばめた、という事なのかもしれない。もしくは主人公の「ハサミ男」よろしく「動機なき」行為の産物なのか。

評価:★★★☆☆

(初稿:2004/10/13)

なお、著者の殊能将之氏は2013年2月11日に49歳で他界している。稚気に溢れた新作をもう読めないのかと思うと悲しくてたまらない。ここに改めてご冥福をお祈りする。