14 Til I Die

消されるな、この想い

ミステリレビュー「半落ち」 著:横山秀夫

半落ち (講談社文庫)

半落ち (講談社文庫)

映画「半落ち」原作。

 アルツハイマーを患った妻を、その手にかけた現職警察官。自首し、犯行の全てを自供した彼だったが、犯行後の二日間の行動については黙して語らなかった。その「空白の二日間」に一体何があったのか?

 謎らしい謎が始めから最後まで「空白の二日間」一点に絞られるため、ともすれば短編程度のボリュームにしかなりえない題材だが、そこは流石に横山秀夫複数の人物にそれぞれの視点で事件を語らせるという手法が堂に入っていて、中編として間延びせずに良くまとまっている。それぞれの登場人物も、ステレオタイプではあるがそれぞれにキャラが立っている。
 しかしながら、ミステリ・物語としての出来となると少々物足りない。結局の所、「空白の二日間」以外の謎は存在せず、その謎についても折り目正し過ぎるほどにあからさまな伏線が多数張られているため、意外性に乏しい。物語の流れも、複数の人物の視点に立っている割には、どれもこれも似たような展開を迎え、予定調和の域を出ない。
 予定調和ゆえに、その結末は非常に「綺麗」である。しかし、「尊厳死」や「難病」という奇麗事だけではない現実を題材にした話としては、「綺麗」過ぎる。そのため、全体的にリアリティ――あくまでも「創作」中のリアリティだが――漂う作品なのに、最後の最後に待ち受けるのがファンタジーという、なんとも居心地の悪い仕上がりになってしまっている。
 「お涙頂戴」モノと紙一重か。
評価:★★☆☆☆
(初稿:2005/10/18)

半落ち

半落ち