日大の「ご批判は甘んじてお受けいたします」に釣られる人々
【日大「批判甘んじて受ける」】反則タックル問題の日大の再回答書を受けて関学大が会見を開き、「真実とは到底認識できない」などと断罪。日大は「厳しいご批判は甘んじてお受けいたします」とコメント。 https://t.co/ghuh1mJtkU
— Yahoo!ニュース (@YahooNewsTopics) 2018年5月26日
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180526/k10011454381000.htmlwww3.nhk.or.jp
上記コメントを見た時に「あ、これはちょっと炎上するな」と思ったら案の定、「炎上」までは行きませんでしたがネット上では更なるバッシングが行われたようです。
非難されたのは、主に以下の部分でした。
厳しいご批判は甘んじてお受けいたします
「甘んじて(甘んずる)」には『しかたがないと思ってがまんする(デジタル大辞泉)』という意味があるので、「厳しい批判は我慢してお受けします」というふうに解釈した方が多かったのですね。
Twitterでもツッコミを入れている方が多いようです↓
「上から目線」だとか「辞書引いて言葉使え」だとか、散々に言われております。
ところがどっこい、「甘んじて受け入れる」という言葉は、Twitterの方々が言うような「上から目線」の意味ではないのです。
「甘んじて受け入れる」という言葉を他の言葉に言い換えると「甘受」となります。*1
この「甘受」という言葉は、「大辞林」や「デジタル大辞泉」によると、
甘んじて受け入れること。 「あえて批判を-する」 〔本来は、快く受け入れる意〕(大辞林)
やむをえないものとしてあまんじて受け入れること。(デジタル大辞泉)
となっています。
この大辞林の方の語釈に注目していただきたいのですが、「甘受」「甘んじて受け入れる」とは、本来は「快く受け入れる」という意味です。「仕方なく」というニュアンスはありません。*2
「新明解国語辞典(第七版)」だともっと分かりやすくて、『やむを得ないものとして文句を言わずに受け取ること』と説明されています。
そもそも「甘んずる」には、本来は「(現状に)満足する」という意味合いがあります。
「清貧に甘んずる」といった場合、「貧乏を我慢している」のではなく「志を貫いた結果、貧乏である事を受け入れ満足している」というような意味の方が適切でしょう。*3
ですから、上記日大のコメントは「厳しいご批判はやむを得ないものとしてお受けいたします」という意味な訳です。
「辞書で意味引け」とツッコんでいたそこの貴方! 貴方こそ辞書を引いてから物を言って下さい(苦笑)。
恐らくネットで引ける辞書だけ参照したのでしょうが、そういう方に限って用例もろくすっぽ調べずに語釈を読み違えてとんでもない誤解をしてしまうもの……。
とはいえ、日大ももっと言葉遣いを気を付けた方が良かった
とはいえ、「甘んじて」は上記のように「我慢する」というニュアンスも含む為に、誤解を招きやすい表現の一つです。私が「炎上するな」と思ったのもそのため。
「甘んじて受け入れる」「甘受する」という定型句の意味や用法をよく知らない方が「上から目線」と誤解してしまうのも、まあやむを得ないことなのではないでしょうか?
「真摯に」とか、いくらでも言い換えの言葉があったことを考えると、コメント作成者が無駄に語彙力を発揮してしまったのかな? 等と少々気の毒にも思えてきます。
もしかしたら狙って誤解されやすい言葉を使ったのかも?
↓私なんかよりもよっぽど学がある方も「甘んじて受け入れる」を悪い意味として受け取っているようですので、皆様も安易に使わない方が良いかもしれませんね*4。
おいおい日大本部は〝甘んずる〟という言葉の意味を辞書でひいてくれ…もう遅いけど>「厳しい批判 甘んじて受ける」関学大会見受け日大がコメント | NHKニュース https://t.co/f7DYkqRlNR
— 青木敬士/アミッドP (@AOKI_KC) 2018年5月26日
「甘んじて」て、納得できないけど仕方なくってこと。。→日大広報が再びコメント 関学大からの批判「甘んじてお受けいたします」 https://t.co/QDnq4mnm20
— 長野智子 (@nagano_t) 2018年5月27日
おまけ
b.hatena.ne.jp
NHKの記事についたはてなブックーマークでは、「甘んじて受け入れる」を本来的な意味で捉えている人はごく僅か。
はてな村民の日本語力()が心配です。
追記
はてなブックマーク数が100を超えていてちょっと驚いています。
一部の方からご指摘いただいてますが、「煽り臭い」のは半分わざとです。ブクマコメにも書いた通り、日大のコメントに対して「辞書引け」などと揶揄していた向きに向けたものですのであしからず。
なぜわざわざ、紙の辞書の語釈に拘って本記事が書かれているのか、という点を読み取ってくださった方もいたようなので、少し安心しました。
反面、『恐らくネットで引ける辞書だけ参照したのでしょうが』とわざわざ書いておいたのに、ネット辞書からの引用で反論してきている人がいて流石に唖然とした部分もあります(苦笑)。
ですが、ブクマやTwitter等では、様々なソースにあたった方からの貴重なご意見・ご指摘もいただけたので、本エントリーを書いたことは決して無駄ではなかったのだな、と納得しておくことにします。
繰り返しになりますが、私は日大のコメントの言葉選びについて擁護するものではありません。「これは誤解を招くな」と思った方の人間です。
沢山の方がご指摘されていますが、言葉の意味は変遷するのが当たり前で、本来の意味・伝統的な意味とは異なっても、「世間一般の認識」が優先されてしまいがちなものです。
「忖度」とかがそのいい例ですよね。「デジタル大辞泉」の「忖度」の語釈には早々と「配慮する」という意味が加えられていて、先見の明がありすぎるな、と苦笑いした覚えもあります。
だから日大の「甘んじて受け入れる」という言い回しに不信感を持つ方がいるのも、おかしいとは思いません。
でも、「日本語がおかしい」とか「辞書引け」という言葉で罵るのは、また別の話ではないでしょうか? 「甘んじて」という言葉だけに目がいって「甘んじて受け入れる」という言葉全体に目がいっていない点には大いに疑問を抱きます。
以上、取り急ぎ。
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