14 Til I Die

消されるな、この想い

ミステリレビュー「名探偵に薔薇を」 著:城平京

名探偵に薔薇を (創元推理文庫)

名探偵に薔薇を (創元推理文庫)

第八回鮎川哲也賞最終候補作の改稿作。

 著者がアニメ化もされた若者向けミステリ『風味』漫画「スパイラル」の原作者という事で、全く期待せずに読んだが、思いのほか「読ませる」作品だった。
 文章は、冒頭からやたらと擬古的でくどい言い回しが続きウンザリさせられたが、本編に突入してからは殆んど気にならなくなり、全体を俯瞰するとむしろ読みやすいという、独自の味わいがあった。それだけに導入部分の引き込みの弱さが惜しい。
 本作の要となるのは、ある「完全犯罪」を可能にする架空の存在である。ミステリ小説というものはその性質上、多くの「フィクションらしいフィクション」――「名探偵」や「畸形の洋館」など――を抱える物だが、本作のそれはあまりに荒唐無稽であり、一部の読者はまずその存在を認めなければならないという関門に直面する。本来、作中のフィクションに付きまとうある種の「胡散臭さ」の払拭は作者の仕事であり、読者に「作中世界限定のリアリティ」を与えなければならない事を考えれば、本作はあまり出来の良い作品とは言えないかも知れない。
 しかしながら、その「払拭されない荒唐無稽さ」さえ容認してしまえば、本作はむしろ優秀なミステリ作品の部類に入ると言える。
 作中のトリックもその結末も、類似作品を探す事は容易いが、逆に言ってしまえば至極標準的な手法であるとも言え、また作中に存在する「名探偵」のキャラクター性も十分。新本格諸作品のようにアクロバティックなトリックこそ存在しないが、非常に折り目正しいミステリである事が、本作の魅力であるように感じた。
 私的には結末部分のあまりのやるせなさを不満に思ったが、そこは個人の好みの問題なのだろう。

評価:★★★☆☆

(初稿:2005/12/14)

なお、城平氏は先頃好評のうちに完結した漫画「絶園のテンペスト」の原作も手がけている。こちらはファンタジー色を前面に出してはいるが、その骨子にはミステリで培ったロジックを駆使した展開の面白さが溢れており、お薦めできる。
同作のアニメも近年まれに見る良作だったので、手を出しやすい方をお試しあれ。

絶園のテンペスト 1 (ガンガンコミックス)

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