14 Til I Die

消されるな、この想い

ミステリレビュー「時計館の殺人」 著:綾辻行人

時計館の殺人 (講談社文庫)

時計館の殺人 (講談社文庫)

「館」シリーズ第5弾。第45回日本推理作家協会賞受賞

 鎌倉の森の中に建つ「時計館」、そこでは次々と不審な事故死・自殺・病死が相次ぐ。そんな館に引き寄せられるように降霊術の実験取材にやって来た9人の男女。そこではやはり凄惨な出来事が次々と……。

 王道的な「吹雪の山荘」シチュエーションで繰り広げられる惨劇。舞台は、108個の時計コレクションが収蔵された畸形の館。閉鎖された館の内部で次々に殺人が起きる一方で、外界では推理作家・鹿谷門実が館に関る不審死について調査を開始する。
 間違いなく、現時点で「館」シリーズ随一の作品であるだろう。本作こそが、幻想と推理とが完璧な融合を遂げた「本格ミステリ」と言えよう。
 本作は、シリーズで1,2を争う凄惨さを内包する。そういったある種スプラッターな面を毛嫌いする方々もいるようだが、これは作品上必要な(残酷な)演出であると言える。作中で作者が登場人物の口を借りて「悪夢」と名付けた人々の暗い内的世界について語っているが、「館」シリーズとは例外なくそれぞれの館が内包する「悪夢」という名の小世界が崩壊する様を描いている。そして、その世界の崩壊時にはやはり例外なく凄惨な出来事が伴う。随一の凄惨さを誇るというのなら、それは本作の描く「悪夢」がそれほど巨大である、という何よりの証拠に違いない。
 綾辻行人は間違いなく「世界」を描く類の作家である、と痛感させられる。そして実に気持ちよく「騙して」くれる。満足。

評価:★★★★★

(初稿:2004/08/09)