14 Til I Die

消されるな、この想い

ミステリレビュー「慟哭」 著:貫井徳郎

慟哭 (創元推理文庫)

慟哭 (創元推理文庫)

 デビュー作ということで、少々筆の粗さこそ目立つが、文章自体は非常に素直で読みやすい。
 さて、肝心要のミステリとしての魅力だが、全体の三分の一までは不満無く楽しめるものの、残念ながらそれ以降の部分は凡庸な作品に終わってしまっているように感じた。読者のミスリードを誘う本作のメイントリックの手法は、余程の技巧を駆使しない限りは一般的なミステリ読みに疑念を差し挟む余地を与えてしまい、「読者を心地よく騙す」事は非常に難しい。
 結末についても、メイントリックに見事に「騙された」人間ならば衝撃をもって受け止められるだろうが、途中で気付いてしまった人間にはある種の居心地の悪さを残すばかり。「驚愕の二段オチ」が欲しかった所だ。
 とはいえ、作品全体の完成度は、新人のそれを遥かに凌駕しており、作者の今後の作品に大いなる期待を抱かせる物なのだが。*1
評価:★★☆☆☆
(初稿:2005/01/09)

Kindle版も有り。

慟哭 (創元推理文庫)

慟哭 (創元推理文庫)

*1:実際、これ以降も貫井氏は意欲的なミステリを数多く執筆されている。

ミステリレビュー「異邦の騎士」 著:島田荘司

異邦の騎士 (講談社文庫)

異邦の騎士 (講談社文庫)

御手洗潔シリーズ。

 全ての記憶を失ってしまった男。自分が何者かも分からぬ内に、街で出会った女性と幸せな生活を始める。ひょんな事から知り合った占い師・御手洗潔との交流も深まっていき、穏やかな日々が続くかと思われた中、次第に明らかになっていく自らの過去には凄惨な出来事が――?

 色々と都合よく事が動き過ぎている部分が多く、伏線かと思いきやその後全く何の説明もされないエピソードも存在するなど、完成度という点では決して褒められたものではない本作だが、そういったマイナス要素を差し引いても優秀な娯楽作品に違いない。
 残念な点は、御手洗シリーズの愛読者には、すぐに本作がどのような結末を迎えるのかが予測できてしまう事だろうか。更に言えば、御手洗シリーズをある程度通読していないと、本作の魅力が半減してしまうきらいもあり、物語以外の部分でジレンマを感じさせる作品とも言える。
 私的には、御手洗シリーズの中では最も好きな作品だが。
評価:★★★★☆
(初稿:2004/08/21)



改訂完全版の方はKindleストアでも販売している模様。

ミステリレビュー「鉄鼠の檻」 著:京極夏彦

文庫版 鉄鼠の檻 (講談社文庫)

文庫版 鉄鼠の檻 (講談社文庫)

京極堂」シリーズ第4弾。

謎の巨刹・明慧寺。その強固な結界に訪問者が訪れた時から、仏弟子たちが次々と惨殺される事件が起こり始め……。京極堂をして「分が悪すぎる」と言わしめるこの怪異に、果たして終わりは訪れるのだろうか?

 前作までの京極堂シリーズは、京極堂による「憑物落し」によって怪異を解き明かし、幻想に囚われていた人々を現実の世界に引き戻す事によって解決を見てきた。もちろん、本作においてもその手法は健在なのだが、少々毛色が違うように見受けられる。
 本作においては、確かに京極堂による「憑物落し」が行われ、怪異は解き明かされる事になる。だが、それでもなお「幻想」がどこかに生き延びていて、余韻を残すのだ。そしてこの「幻想の余韻」は本作より後のシリーズにおいて、より顕著になっていく傾向にある。
 「本格」としては今一歩サプライズが足りない感があるが、本作が醸し出す「結界」という世界観は圧巻。読者としても、ここは「作品」という名の「結界」に囚われた気持ちで読んでみると、より一層楽しめる作品だろう。
評価:★★★★★
(初稿:2004/10/30)

ミステリレビュー「放課後」 著:東野圭吾

放課後 (講談社文庫)

放課後 (講談社文庫)

デビュー作。江戸川乱歩賞受賞作。
 高校内で発生した密室殺人事件、その謎を追う高校教師、女生徒達の怪しげな振る舞い……。「学園ミステリ」を「本格」の方向へ少しだけ軌道修正するとこのようになる、といった見本のような作品。
 トリック、ドラマ展開ともに破綻と言えるようなミスは無く、基本に忠実なミステリに仕上がっている。が、裏を返せばミステリとしての「爆発力」に欠ける、とも言える。もっとも、本作は人物描写とそれに伴う物語の流れが支持されているようなので、一概に欠点とは言えないのだが。
 「結末」については、唐突に過ぎるように思えた。確かに、伏線(というか余りにもあからさまに「隠された事実」を示した描写)はきっちりと仕込んであったが、何故「彼ら」がそこまで極端な行動に出てしまったのか、その理由が少々希薄なように感じた。
評価:★★★☆☆
(初稿:2004/08/02)

ミステリレビュー「暗黒館の殺人」 著:綾辻行人

暗黒館の殺人(一) (講談社文庫)

暗黒館の殺人(一) (講談社文庫)

暗黒館の殺人(二) (講談社文庫)

暗黒館の殺人(二) (講談社文庫)

暗黒館の殺人(三) (講談社文庫)

暗黒館の殺人(三) (講談社文庫)

暗黒館の殺人(四) (講談社文庫)

暗黒館の殺人(四) (講談社文庫)

「館」シリーズ第6弾。
 現在の所、シリーズ一の大長編。
 本作を端的に評価するならば、次の二つに集約される事だろう。即ち、「『館』シリーズの最重要作品」と「ミステリとしては凡庸」に。
 もちろん、本作のトリックや世界観について「凡庸なミステリ」であると主張するつもりはない。その二つについては、「綾辻行人以外には体現できない極上の世界」であると言えるだろう。しかしながら、本作では真相解明までの流れが冗長に過ぎ、またあからさま過ぎる伏線の数々によって、「たった一言で世界がひっくり返る」類の「心地よい驚き」を感じる事が困難になってしまっている(もし、あの人物の素性について「騙された!」と感じた人がいたならば、失礼ながら洞察力不足と言わざるを得ない)。
 読者によっては、「人形館の殺人」の時と同じ「シリーズ作品が故の失敗」を感じる事になるかもしれない。また、あまりにも幻想小説に寄り過ぎた本作について、拒否反応を示す方もいるかもしれない。
 しかしながら、本作を「シリーズの線引き的作品」と割り切ってしまうならば、決して非難された出来とまでは言えないという所が、本作の評価を困難にしている。どちらにしろ、シリーズの読者以外にはお奨めできない。
評価:★★★☆☆
(初稿:2004/09/16)

Kindle版も有。

ミステリレビュー「ルー=ガルー  忌避すべき狼 」 著:京極夏彦

分冊文庫版 ルー=ガルー《忌避すべき狼》(上) (講談社文庫)

分冊文庫版 ルー=ガルー《忌避すべき狼》(上) (講談社文庫)

 京極作品には言ってみれば「はっちゃけた」作品が多いのだが、それにしても本作の「はっちゃけ」振りは他に類を見ない物ではないだろうか。
 舞台は近未来。主人公は14歳の少女達。一般読者から寄せられた未来設定の数々。そのどれもが、「妖怪作家」として知名度を上げてきた京極からは、程遠いようにも感じる。そしてその印象通り、本作は従来の京極作品とは少々毛色の違う仕上がりとなっている。
 とにかく、本作は軽快(というと語弊があるが)なのだ。前向きな少女達や後半部のテンションの高い場面展開、そしてその裏に潜むある種のデリケートさ。一部の方にしか分からない例えで恐縮だが、まるで「我孫子武丸が乗り移ったかのような」作風だ。 名作というよりは怪作、優秀作というよりは問題作、といった評価が本作にはふさわしいだろう。もちろん、褒め言葉として。
評価:★★★★☆
(初稿:2004/09/22)

ルー=ガルー 忌避すべき狼 完全版(1) (KCデラックス エッジ)

ルー=ガルー 忌避すべき狼 完全版(1) (KCデラックス エッジ)

漫画版についてはノーコメント。

ミステリレビュー「青の炎」 著:貴志祐介

青の炎 (角川文庫)

青の炎 (角川文庫)

映画「青の炎」の原作

――家族を守るため、少年は「殺人」を決意する。

 警察にも法律にも見放され、生来の頭の良さと若さゆえの性急さから「完全犯罪」を企てる主人公の少年。本作を読んでいて最も強く感じた事、それは主人公の「孤独さ」だった。
 なまじ頭が回るだけに、何とか自分だけの手で問題を解決しようと苦しみ続ける主人公。もし、彼が少しばかり情けない思いをしてでも、友人や周りの人間に助けを求めていれば、「殺人」という最終決定を下さずに済んだのでは? という気持ちが強く残った。
 本作は、読んだ者の心にその類の「刹那」を残して終局へと向かう。哀しいが故に、本作は名作である。それがまた「切ない」所だ。
評価:★★★★☆
(初稿:2004/08/20)

青の炎 角川文庫

青の炎 角川文庫

青の炎 Blu-ray

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