ミステリレビュー「46番目の密室」 著:有栖川有栖
- 作者: 有栖川有栖,綾辻行人
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1995/03/07
- メディア: 文庫
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有栖川作品には人気を二分する二つのシリーズ作品が存在する。一つは、「月光ゲーム」を一作目とする大学生・有栖川有栖が主人公である「学生アリス」シリーズ。もう一つは、ミステリ作家・有栖川有栖と犯罪学者・火村英生が活躍する「作家アリス」シリーズであり、本作はそのシリーズに属する。
さて、肝心の内容だが、表題にある「密室」に対する考察や拘りを期待していると少々肩透かしをくらう。「密室モノ」としてはごく普通の構成と言っても過言では無いだろう。
全体の出来としては「推理小説」の良いお手本といえるレベル。が、惜しむらくは、新本格特有の、匂い立つようなミステリの雰囲気が殆んど感じられない所だろうか。良い意味でも悪い意味でも「お手本」止まりな作品であり、それは本作以降の「作家アリス」シリーズ全般に言えることなのだが……、詳細は各作品のレビューに譲る事にする。
評価:★★★☆☆
(初稿:2006/05/16)
余談だが、先日「作家アリス」シリーズを原作とするテレビドラマ「臨床犯罪学者 火村英生の推理 」の放送が開始された。イケメン若手俳優に火村とアリスを演じさせている点から見ても、内容は言わずもがな、といったところか。
臨床犯罪学者・火村英生の推理 I 46番目の密室 (角川ビーンズ文庫)
- 作者: 有栖川有栖,麻々原絵里依
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/09/29
- メディア: 文庫
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ミステリレビュー「霧越邸殺人事件」 著:綾辻行人
- 作者: 綾辻行人
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1995/01/30
- メディア: 文庫
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ほんの少しの油断から吹雪に見舞われ遭難してしまった劇団「暗色天幕」の面々。そんな彼らの前に突如現れた山中の洋館「霧越邸」。「助かった」と思ったのも束の間、霧越邸内では不可思議な現象が次々と起こり、そして遂には殺人事件が……。
「時計館の殺人」が「幻想小説と見事に融和したミステリ」だとすれば、本作は「ミステリと見事に融和した幻想小説」と言うにふさわしい作品だろう。しかも、それでいて本作は紛れも無い「本格ミステリ」でもある。綾辻氏が冗談交じりに語る「本格=雰囲気」論を究極まで突き詰めた作品といえるのかもしれない。
「見立て殺人」というありふれた素材を使いながらも、全く退屈する事も破綻する事もないこの物語は、真実恐るべき完成度を誇っている。そして、哀愁とも何とも言えぬ雰囲気を醸し出す、心地よい余韻を残した、その結末。
満腹。ごちそうさまでした。
評価:★★★★★
(初稿:2004/08/16)
ミステリレビュー「翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件」 著:麻耶雄嵩
- 作者: 麻耶雄嵩
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1996/07/13
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さて、少々ネタバレをしてしまえば本作は大まかに言って「メタミステリ」に分類される作品と言える。古典本格ミステリの様々なエッセンスや、特定作品に向けたオマージュが多用されており、そういった読み方をした場合、所々で失笑*1を禁じ得ない、そんな作品だ――ただし、度を越したミステリマニアにとっては、だが。
オマージュを意識し過ぎた雰囲気は出来の悪いパロディ以外の何物でもなく、最後に待ち受ける驚天動地の結末については最早ただのギャグにしかなっていない。ネット黎明期に某有名ミステリ系テキストサイトでも鉄板ネタとして取り上げられていた、と言えば一部の方には通りがよいだろうか? 私的には「金田一少年の事件簿」*2を読んでいたのにいつの間にか「名探偵コナン」にすり替わっていた位の衝撃だった。
しかしながら、この作品は新本格の旗手と呼ばれるようなお歴々をはじめとするミステリマニアの方々には概ね評判がいい。まことにミステリマニアとは業の深い生き物であると、ため息を一つ。
評価:★☆☆☆☆
(初稿:2016/1/7)
謹賀新年
ここ数年、経済的にも精神的にも不安定な生活を送っている為に無事2016年を迎えられるか心配でしたが、新年早々のど風邪をやらかした以外は平穏な元旦を過ごせております。皆様におかれましては、幸多き一年となることをお祈りいたします。
今年も本ブログは至極マイペース、ネット上での話題への言及や「ミステリレビュー」をはじめとする過去にwebサイトで書いた記事の再掲載などを、気が向いた時に投稿するというスタンスで運営してまいります。ふと思い出したときなどに足を運んで頂ければ幸いです。
ミステリレビューについてはストックがまだそれなりにありますので、月に4本以上を目安に再投稿しつつ、読了済みながらも過去サイトには掲載しなかったものもちょこちょこと書いていこうかと思います。
メインブログ「たこわさ」の方は相変わらず週1~3程度のペースで漫画・アニメ・ゲームの独りよがりな感想を垂れ流しております。頭の気の毒な中年オタクを観察なさりたい方にはお勧めですのでどうぞご贔屓のほどを(などと新年早々安易な自虐ネタをかましつつ終了)。
ミステリレビュー「御手洗潔の挨拶」 著:島田荘司
- 作者: 島田荘司
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1991/07/04
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「御手洗潔」シリーズの短編集
島田荘司という方は、とにかく「大掛かりなトリック」を描く事が大好きなようで、そういった類のミステリを好む方にとっては安心して読める作家といえるだろう。だが、「本格の匂い」を強く求める読者には、少々物足りないのも事実であろう。「本格」というには 「雰囲気」が足りない。
しかしながら、本書に収録された短編はいずれも物語として単純に楽しめ、トリックだけを誇張した不出来なミステリ作品とは一味違う。「本格ミステリ」ではなく「本格的なミステリ」とでも言えばいいだろうか。
私的には「紫電改研究保存会」がお気に入りの作品。
評価:★★★☆☆
(初稿:2004/08/21)
ミステリレビュー「慟哭」 著:貫井徳郎
- 作者: 貫井徳郎
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1999/03
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さて、肝心要のミステリとしての魅力だが、全体の三分の一までは不満無く楽しめるものの、残念ながらそれ以降の部分は凡庸な作品に終わってしまっているように感じた。読者のミスリードを誘う本作のメイントリックの手法は、余程の技巧を駆使しない限りは一般的なミステリ読みに疑念を差し挟む余地を与えてしまい、「読者を心地よく騙す」事は非常に難しい。
結末についても、メイントリックに見事に「騙された」人間ならば衝撃をもって受け止められるだろうが、途中で気付いてしまった人間にはある種の居心地の悪さを残すばかり。「驚愕の二段オチ」が欲しかった所だ。
とはいえ、作品全体の完成度は、新人のそれを遥かに凌駕しており、作者の今後の作品に大いなる期待を抱かせる物なのだが。*1
評価:★★☆☆☆
(初稿:2005/01/09)
Kindle版も有り。
- 作者: 貫井徳郎
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2012/10/25
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ミステリレビュー「異邦の騎士」 著:島田荘司
- 作者: 島田荘司
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1991/12
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全ての記憶を失ってしまった男。自分が何者かも分からぬ内に、街で出会った女性と幸せな生活を始める。ひょんな事から知り合った占い師・御手洗潔との交流も深まっていき、穏やかな日々が続くかと思われた中、次第に明らかになっていく自らの過去には凄惨な出来事が――?
色々と都合よく事が動き過ぎている部分が多く、伏線かと思いきやその後全く何の説明もされないエピソードも存在するなど、完成度という点では決して褒められたものではない本作だが、そういったマイナス要素を差し引いても優秀な娯楽作品に違いない。
残念な点は、御手洗シリーズの愛読者には、すぐに本作がどのような結末を迎えるのかが予測できてしまう事だろうか。更に言えば、御手洗シリーズをある程度通読していないと、本作の魅力が半減してしまうきらいもあり、物語以外の部分でジレンマを感じさせる作品とも言える。
私的には、御手洗シリーズの中では最も好きな作品だが。
評価:★★★★☆
(初稿:2004/08/21)
改訂完全版の方はKindleストアでも販売している模様。
- 作者: 島田荘司
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/10/31
- メディア: Kindle版
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