14 Til I Die

消されるな、この想い

ミステリレビュー「霧越邸殺人事件」 著:綾辻行人

霧越邸殺人事件 (新潮文庫)

霧越邸殺人事件 (新潮文庫)

 ほんの少しの油断から吹雪に見舞われ遭難してしまった劇団「暗色天幕」の面々。そんな彼らの前に突如現れた山中の洋館「霧越邸」。「助かった」と思ったのも束の間、霧越邸内では不可思議な現象が次々と起こり、そして遂には殺人事件が……。

 「時計館の殺人」が「幻想小説と見事に融和したミステリ」だとすれば、本作は「ミステリと見事に融和した幻想小説」と言うにふさわしい作品だろう。しかも、それでいて本作は紛れも無い「本格ミステリ」でもある。綾辻氏が冗談交じりに語る「本格=雰囲気」論を究極まで突き詰めた作品といえるのかもしれない。
 「見立て殺人」というありふれた素材を使いながらも、全く退屈する事も破綻する事もないこの物語は、真実恐るべき完成度を誇っている。そして、哀愁とも何とも言えぬ雰囲気を醸し出す、心地よい余韻を残した、その結末。
 満腹。ごちそうさまでした。
評価:★★★★★
(初稿:2004/08/16)